加藤浩子の旅びと通信 オペラゆかりの地を訪ねる醍醐味〜《カヴァレリア・ルスティカーナ》ゆかりのシチリア島、ヴィッツィーニ村訪問記

こんにちは、musicaです。
郵船トラベルの講師同行ツアー「バッハへの旅」「ヴェルディへの旅」
などでおなじみの、加藤浩子氏による特別寄稿、第5回目をお届けします。

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こんにちは。加藤浩子です。
 「郵船トラベル」さんが主催するツアーで、同行講師をさせていただいています。
「郵船トラベル」さんのメールマガジンの場をお借りして発信している「加藤浩子の旅びと通信」、第5回目の今回は、オペラ《カヴァレリア・ルスティカーナ》ゆかりのシチリア島、ヴィッツィーニ村の訪問記です。


イタリアオペラの殿堂、ミラノのスカラ座


「オペラツアー」を組む目的は、いくつかあります。
最大の目的は、欧米の有名歌劇場で、いい公演を鑑賞することでしょう。
特にヨーロッパのオペラハウスは、建物自体に訪れる価値があります。劇場そのものが歴史的な建築物である場合も少なくありません。個性豊かな劇場の雰囲気を味わうだけでも、はるばる来てよかったと思えます。一回の旅で複数の国の複数の劇場を訪れることができるのも、ヨーロッパのオペラツアーの魅力です。
もちろん、一番大事なのは公演の内容です。有名スターが出演する人気演目から、実力派が揃う注目公演まで選択肢はいろいろですが、なるべく多くの方にご満足いただける公演を選ぶよう、心がけています。
さて、「オペラツアー」ならではのもう一つの目的は、オペラや作曲家の「ゆかりの地」の訪問です。
一般的な観光地ももちろん訪問しますが、ヴェルディやプッチーニ、モーツァルト、ワーグナーといった有名作曲家のゆかりの場所をめぐるのは、興味をそそられるもの。特に、その旅で鑑賞した作曲家のゆかりの場所だったりすると、感銘もひとしおです。
これまで訪れた「作曲家ゆかり」の場所の中で、一番印象に残り、繰り返し訪れているのは、ヴェルディが私財を投じて建てた音楽家のための老人ホーム「憩いの家」です。設立してから120年近くたった今でも現役の老人ホームとして使われており、スカラ座のオーケストラや合唱団のOBからフリーランスの作曲家や指揮者まで、音楽家として活躍した方々やその家族が老後を過ごしています。敷地内の礼拝堂には、ヴェルディ夫妻のお墓もあります。


音楽家のための憩いの家


「オペラ作品ゆかりの地」の訪問も、なかなか面白いものです。《ドン・カルロ》に登場するマドリッド郊外のエル・エスコリアル宮殿、《パルシファル》に登場するクリングゾルの魔法の花園のモデルとされるアマルフィ海岸のラヴェッロといったところは、観光地としても有名で、見応え満点。はるばる訪れる価値のある場所でした。


エル・エスコリアル宮殿


ラヴェッロ


とはいえ、これまで訪れた中で一番強烈に記憶に残っているのは、マスカーニのオペラ《カヴァレリア・ルスティカーナ》の舞台になった、シチリア島のヴィッツィーニ村です。
1890年に初演された《カヴァレリア・ルスティカーナ》は、「ヴェリズモ(=真実主義)」を代表するオペラです。「ヴェリズモ」はもともと文学に起こった潮流で、フランスの自然主義文学に影響を受け、貧しい人々のリアルな生活をテーマにしました。
《カヴァレリア・ルスティカーナ》は、ヴェリズモ文学を代表する作家ジョヴァンニ・ヴェルガの同名の短編小説が原作。シチリアの地主の家に生まれたヴェルガは、パリで自然主義文学の洗礼を受けて、故郷に帰ってからは、地元シチリアの貧農たちの地べたを這いずり回るような人生を、乾いた、でも濃密な文体で綴りました。
文庫本(岩波文庫、河島英昭訳)にするとわずか12ページしかない《カヴァレリア・ルスティカーナ》は、ヴェルガの代表作です。舞台になっているヴィッツィーニ村は、ヴェルガ家の興った場所。ヴェルガ自身はカターニャで生まれましたが、ヴィッツィーニにも長く暮らしており、彼が住んだ家はいまも残っています。


ヴィッツィーニのヴェルガの家


《カヴァレリア》の物語は単純です。村の酒場の息子トゥリッドゥには、ローラという恋人がいました。けれどトゥリッドゥが兵役に取られている間に、ローラは金持ちの馬車屋アルフィオと結婚してしまいます。自棄になったトゥリッドゥは、サントゥッツァという村娘と関係を持ちますが、それを嫉妬したローラと再びよりを戻してしまいます。棄てられたサントゥッツァはローラの夫アルフィオに二人の仲を告げ、トゥリッドゥは決闘でアルフィオに殺されてしまうという筋書きです。
ちなみに、シチリアや南イタリアの「掟」では、名誉を汚された夫は相手の男に決闘を挑むのが当然でしたし、また未婚の娘が男性と関係を持てば、村八分になるのも当然でした。
ヴェルガは自分が聞き取った実話に基づいて、この物語を書いたと言われています。


ヴィッツィーニの周辺の風景


初めてヴィッツィーニ村を訪れたのは、2012年のこと。ヴェネツィア、トリエステ、そしてシチリア島をめぐり、四つのオペラハウスでオペラを鑑賞するのがメインの旅でしたが、シチリア島は見どころも多く、観光も充実した旅になりました。その中で、参加メンバーにも深い印象を残したのが、ヴィッツィーニ村だったというわけです。もちろん、シチリアを代表する2つのオペラハウスも、それぞれ歴史と風情のある劇場でした。



シチリア島最大の劇場、パレルモのマッシモ劇場。映画『ゴッドファーザー・パート3』の舞台にもなった


シチリア最初の訪問地は、州都パレルモ。文明の十字路であるシチリア島ならではの長く複雑な歴史を誇る、魅力的な街です。観光を済ませた後、この街にそびえるシチリア最大のオペラハウス、マッシモ劇場で、ヴェルディのオペラ《二人のフォスカリ》を鑑賞しました。
一夜明け、アグリジェントの遺跡などを見学して、ヴィッツィーニ村へ向かいました。
ヴィッツィーニ村は、島の南東部の山中にあります。午前中の観光で時間を取られてしまったため、幹線道路を外れてヴィッツィーニ村に向かう道に入った頃には、そろそろ日が傾きかけていました。
夕方の気配が迫るなか、バスはやや喘ぎながら、人気のない山道を登ってゆきます。
なんだか寂しいところ。本当に、この先に村なんかあるのだろうか。
そう思いはじめてしばらく経った時、山の中腹にへばりつくように広がるヴィッツィーニ村の全貌が、視界に飛び込んできました。


アグリジェントの遺跡


ヴィッツィーニ村の路地


中央広場でバスをおり、さっそく《カヴァレリア》の舞台に向かいます。
広場からほんの数百メートルのところに、オペラの「舞台」はありました。
「ローラの家」と「サントウッツァの家」。なんと二つは同じ路地にあり、ほぼ向かい合っていたのです。トゥリッドウはこの2軒に暮らす二人の女性と、恋愛をしていたというわけ。噂になって当然でしょう。


ローラの家


サントゥッツァの家


 

オペラの中で重要な役割を果たすトゥリッドゥの母ルチア(原作では「ヌンツィア叔母さん」)が経営していた酒場や、復活祭の礼拝が行われた教会(サンタ・テレーザ教会)も、ちゃんと残っていました。すべて、目と鼻の先です。
 貧しい土地を耕し、働いて、休みの日は教会に行くしかない、シチリアの山奥の小さな村。村人はみな知り合いの、息苦しい人間関係。そこで道に外れた男女の関係が生まれれば、村中の格好の噂になり、追い詰められるのも無理はない。
 夕闇が濃くなるうら寂しい路地を散策しながら、《カヴァレリア》の世界が、人間関係が、実感できたのでした。
 その後、再度訪れた時には、酒場でワインを振る舞ってもらったことも忘れられません。


マンマルチアの酒場


サンタ・テレーザ教会


その夜の宿は、シチリア一の景勝地タオルミーナの、修道院を改装した歴史的ホテルでした。
息苦しい山村から、海を臨む絶景のリゾートへ。この多彩さも、シチリアの魅力です。


タオルミーナのホテルから眺めた朝日





最後に、タオルミーナに残るギリシャ劇場で収録された、《カヴァレリア・ルスティカーナ》間奏曲の映像をお届けします。スカラ座をはじめイタリアのオペラハウスで愛される韓国出身のマエストロ、チョン・ミョンフンが、スカラ座のオーケストラを指揮した映像です。


《カヴァレリア・ルスティカーナ》とシチリア島の歴史については、拙著『オペラでわかるヨーロッパ史』(平凡社新書)に詳しく書きましたので、ぜひご覧いただければ幸いです。

第5回 オペラゆかりの地を訪ねる醍醐味〜《カヴァレリア・ルスティカーナ》ゆかりのシチリア島、ヴィッツィーニ村訪問記 いかがでしたでしょうか?

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投稿者名 musica 投稿日時 2020年07月03日 | Permalink