音楽評論家 加藤浩子と行く バッハへの旅 オンラインツアー

12月15日(火)「音楽評論家 加藤浩子と行く バッハへの旅」オンラインツアー
生配信により若干のスケジュール変更はございましたが、
無事終了することができました。

ツアーは、お蔭様でご好評をいただき、88名様にお申込みいただきました。
当日ご視聴いただいた皆様、アーカイブ配信でこれからご覧いただく皆様、
誠にありがとうございます。
※アーカイブ配信は、お申込みのお客様に本日アーカイブ用URLをお送りしております。


特に、バッハ音楽祭 音楽監督のマウル氏との生配信、
ウルリヒ・ベーメ氏のオルガン演奏は大好評だったように思います。

オンラインツアー第2弾としては、ウィーンやヴェローナなどを計画中です。

詳細が決まり次第、改めてお知らせいたしますので、続報をお楽しみに!


投稿者名 いちこ 投稿日時 2020年12月11日 | Permalink

音楽評論家 加藤浩子と行く バッハへの旅「オンラインツアー」予告映像が完成しました!

先日の加藤浩子先生の旅びと通信にもありましたように、
12月15日(火)に、「音楽評論家 加藤浩子と行く バッハへの旅」オンラインツアーを開催することとなりました!
※オンデマンド配信も行いますので、ご都合のつかない方でもご参加いただけます。

今回は、オンラインツアーの予告映像が出来上がりましたので、そのお知らせです。


実際のオンラインツアーでは、加藤浩子先生が写真を交えながらご案内!
生誕地のアイゼナッハから始まり、人生に沿ってバッハゆかりの地をめぐります。
さらにライプツィヒ・ドレスデンでは特別ゲストが登場!

<ライプツィヒ>
♪ゲヴァントハウス管弦楽団のコントラバス奏者エーバーハルト・シュプレー氏が
バッハゆかりの地をご案内(録画)

♪世界的なバッハ学者で、ライプツィヒのバッハ音楽祭の芸術監督を務める
ミヒャエル・マウル氏に、ライプツィヒからライブ中継で、
音楽祭やバッハ博物館についてお話をいただきます。

♪バッハがかつて働いていた聖トーマス教会のオルガニスト ウルリヒ・ベーメ氏
 によるオルガン演奏(録画)と日本へのメッセージ(予定)



<ドレスデン>
♪ワイン店「デーヴェーゲーハンデル」日本人ソムリエ 沼尻慎一氏に、
現地からライブで、ドイツワインや地元の名物をご紹介いただきます。

その他、オンラインツアー詳細&お申込みはこちら!

オンラインツアーでは、オンライン会議システムZoom「ウェビナー」を使用します。
Zoom事前レクチャーもありますので、オンライン関係は苦手という方でも
ご参加いただけると思います!

これまで「バッハへの旅」にご参加いただいた方も、これからのご参加を検討されている方も、予定はないけど興味はある方も、この機会に是非ご参加くださいませ!


投稿者名 いちこ 投稿日時 2020年11月25日 | Permalink

加藤浩子の旅びと通信 第10回 「バッハへの旅」オンラインツアーを実施します!

ライプツィヒの聖トーマス教会


こんにちは、musicaです。
 郵船トラベルの講師同行ツアー「バッハへの旅」「ヴェルディへの旅」などでおなじみの、加藤浩子氏による特別寄稿、第10回目をお届けします。

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 こんにちは。加藤浩子です。
 「郵船トラベル」さんが主催する音楽ツアーで、同行講師をさせていただいています。
新型コロナで海外ツアーがストップしてしまった今年、「郵船トラベル」さんのサイトからこの「加藤浩子の旅びと通信」を発信していますが、今回で第10回目となりました。
 それを記念して?というわけではないのですが、来月、「バッハへの旅」のオンラインツアーを実施することとなりました!

 オンラインツアーって何?そう思われる方もいらっしゃることでしょう。
 ある目的地を設定し、訪問先の写真や、現地からの中継も交えて、ご自宅にいながら旅した気分を味わっていただくバーチャルツアーです。
 最近、色々な旅行会社が企画するようになりました。


メンデルスゾーンが建てたバッハ記念碑


 これまで、私自身、カルチャーセンターで、「オンラインで楽しむバッハへの旅」をテーマに、写真や動画を交えてバッハゆかりの地をご紹介する講座を手掛けてきましたが、今回、郵船さんと組んで立ち上げる「バッハへの旅」オンラインツアーは、とてもスペシャルです。「バッハへの旅」のエッセンスをギュッと詰め込んであるのです。


投稿者名 musica 投稿日時 2020年11月19日 | Permalink

加藤浩子の旅びと通信 第9回 イタリアで出会った忘れがたい言葉たち

 こんにちは、musicaです。
 郵船トラベルの講師同行ツアー「バッハへの旅」「ヴェルディへの旅」などでおなじみの、加藤浩子氏による特別寄稿、第9回目をお届けします。

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 こんにちは。加藤浩子です。
 「郵船トラベル」さんが主催するツアーで、同行講師をさせていただいています。
 「郵船トラベル」さんのサイトから発信している「加藤浩子の旅びと通信」、第9回目の今回は、イタリアのオペラ旅で出会った、忘れがたい言葉たちについてお話ししたいと思います。


世界で初めて公開のオペラハウスができたヴェネツィア


 オペラはやっぱり、イタリア。
 オペラ旅はずいぶんしていますが、そう思うことがしばしばあります。
 公演のレベルの話ではありません。伝統的な劇場の、豪華だけれどどことこなく埃っぽい雰囲気とか、喝采や野次を通して伝わってくるお客さんの熱気とか体温とか、そのような諸々から立ち上ってくるある種の「匂い」のようなもの。
 それを感じる時、ああ、オペラはイタリアの「お国もの」なのだなあ、と感じてしまうのです。イタリアの伝統芸能なんだなあ、と。
 オペラはイタリアで、宮廷芸術として始まりました。最初はフィレンツェで、メディチ家の庇護もあって誕生し、ナポリやウィーンやドレスデンといった外国の宮廷へと広がります。一方で、共和国ヴェネツィアでは、一般庶民も入れる公開のオペラハウスが開場し、観客からやんやの喝采を受けることが目的で、機械仕掛けの舞台や、歌手が超絶技巧を発揮するようなアリアが開発されました。宮廷から街へ出た時、オペラは伝統芸能の仲間入りをしたのです。


ヴェネツィアを代表するオペラハウス、フェニーチェ大劇場


ヴェネツィアを代表するオペラハウス、フェニーチェ大劇場


 オペラの公演につきものの「掛け声」は、オペラが「伝統芸能」であることを痛感させてくれます。そして、この手の掛け声やヤジが一番多く、バラエティに富んでいるのもイタリアなのです。
 オペラでの掛け声といえば、一番有名なのは「ブラヴォー Bravo」でしょう。「すごい」「素晴らしい」などを意味するイタリア語で、国際的に流通しています。ちなみにBravoは男性の単数で、女性の単数はBrava ,男性複数はBravi, 女性複数はBrave ですが、使い分けているのはイタリア人くらいで、他の国では誰に対してもBravoを聞くことがほとんどです。それでいい、と思いますけれど。
 「ブラヴォー」の反対、つまり「ダメ!」「引っ込め!」などを意味するのが「ブー!Buu」。いわゆる「ブーイング」です。イタリアでのブーイング体験については、前々回でご紹介しましたが、「ブーイング」については、ドイツも結構手厳しい。演出を重視するお国柄なので、演出に対するブーイングが多いのがドイツの特徴です。バイロイト音楽祭など、新演出は必ずと言っていいほどブーイングの嵐になるよう。ブーイングされるのは演出家にとっては勲章だ、と聞いたこともあるほどです。


バイロイト祝祭劇場


 さて、ドイツをはじめ他の国ではまず聞くことがないのが、「アンコール!」を意味する「ビス!Bis !」です。アリアが素晴らしく歌われると、もう一度聴きたい!という思いが言葉になって、熱烈な拍手とともに客席から湧き起こるのがこの「ビス!」。歌手がなかなか応えないでいると、「ビス!」が「ビース!」になっていく。パスタを茹でるためのお湯が沸騰したまま放置され、蒸気がふつふつと渦巻いているように、客席から熱気が立ち上っている。それが、とてもイタリアらしいのです。
 この「ビス」が伝統芸能的だな、と思うのは、特定の曲や特定の歌手と結びついて、「お決まり」になっているケースが、往々にしてあるところです。
 例えば、ヴェルディのオペラ《ナブッコ》の合唱、〈行け、我が思いよ、黄金の翼に乗って〉。イタリアでは第二の国歌と位置付けられているほど親しまれている曲ですが、《ナブッコ》がイタリアで上演される時は、必ずと言っていいほど「ビス!」の声が湧き起こります。それに応えないなんてあり得ない!とでも言いたいような勢いなのです。
 名指揮者リッカルド・ムーティは、上演中のアンコールは「曲が途切れるから」と嫌うマエストロですが、この合唱への「ビス!」には、ほんの数回、渋々ながら応えました。それが「ムーティがとうとうビスに応えた!」と新聞記事にまでなったのですから、やはり「行け、我が思いよ」の「ビス」は特別です。


2013年にムーティが《ナブッコ》を振ったローマ歌劇場


2013年にムーティが《ナブッコ》を振ったローマ歌劇場


 もう一つ、特定の曲や特定の歌手と結びついた「ビス」といえば、レオ・ヌッチの《リゴレット》が思い浮かびます。
 イタリアの名バリトン、レオ・ヌッチは、ヴェルディの役柄を得意としていることで知られますが、特に宮廷道化師を主人公にした《リゴレット》のタイトルロールは、非公開の公演を含めれば600回!以上歌っているという当たり役。リゴレットといえばヌッチ、という時代が結構長く続きました。
 そのヌッチ、いつからか、《リゴレット》を歌う時、第二幕最後の、娘のジルダ(ソプラノ)との二重唱の後半部をアンコールするようになったのです。
 お客さんも心得たもので、ヌッチがよく出ているパルマの王立劇場などでは、ヌッチがリゴレットを歌う時は、必ずここで「ビス!」の大合唱が起こるのがお約束のようになっていたほど。二重唱が終わると、「さあ、来るぞ!」という感じで、「ビース」「ビース」と始まるのです。お楽しみはこれからだ、という感じ。舞台と客席の、阿吽の呼吸ですね。歌舞伎の大向こうみたい、と何度思ったことでしょう。
 そのヌッチ、なんと日本でも、「ビス!」に応えてくれまました。
 2013年9月、スカラ座の来日公演。演目はやはり《リゴレット》。第二幕幕切れの二重唱で、ヌッチと相手役のエレナ・モシュクが迫力満点の歌唱を終えた直後、「ビス!」が出たのです。
 まさか日本で出るとは思ってはいなかったので、びっくり仰天してしまいましたが、次の瞬間、私も「ビス!」の合唱に加わっていました。パルマでの同じ経験を思い出しながら。
 後で聞いた話では、ヌッチが事前に、何人かのファンに、「アンコールやるから、ビスよろしく!」と知らせていたようです。ますます、伝統芸能ですね。


ヌッチが活躍した、パルマの王立歌劇場


ヌッチが活躍した、パルマの王立歌劇場


 さて、オペラにつきものというわけではないですが、イタリアの劇場で体験した忘れがたい言葉に、「恥を知れ!Vergogna!」があります。
「恥を知れ」とは穏やかではありませんが、実際、穏やかではない場面での出来事でした。
 2012年春、フィレンツェ歌劇場。個人で、《アンナ・ボレーナ》の公演を聴きに訪れました。お目当ては、タイトルロールを歌ったソプラノ、マリエッラ・デヴィーア。イタリアの至宝と言いたくなる、ベテランのベルカントソプラノです。
 ハプニングは、開演前に起こりました。
 なんと、オーケストラと劇場側との賃金交渉が決裂し、オーケストラがストライキを宣言してしまったのです(正確には、ストライキを決議したのは、オーケストラの属している組合でしたが。イタリアでは、組合がとても強いのです)。
 責任はどうも、交渉の場をすっぽかしてしまった劇場総裁にあるようでした。ストライキを回避できなかったのは、彼女(女性の総裁でした)の不誠実さが原因だったようなのです。
 普通、公演が行われれば、キャストがかわろうがストライキがあろうが、チケットが払い戻されることはありません。けれどこの時、劇場は払い戻しに応じる決定をしました。とても珍しいことでしたが、ほとんどの聴衆は払い戻しをしなかったようです。皆、デヴィーアのアンナ・ボレーナを聴きたかった。私もそのために日本から駆けつけたのですし、アメリカやフランスから駆けつけたオペラファンもいました。帰れるはずもありません。
 その言葉は、開演前、総裁が、事情を説明しに緞帳の前に現れた時に飛びました。
 私の前列に座ったおじいさんが、顔を真っ赤にして、女性総裁目がけて「ベルゴーニャ!」と叫んだのです。
 それを合図にしたかのように、「Vergogna ! 」の一語が、あちこちから沸き出し始めました。
 ベルゴーニャ?ベルゴーニャって、何?
 イタリア語がよちよちだった私は、あっけにとられ、めんくらうばかりでした。
 ようやく意味が理解できたのは、第一波が収まってからだったと思います。


現在のフィレンツェ歌劇場


現在のフィレンツェ歌劇場


 ヤジを浴びながら総裁が舞台袖に引っ込み、緞帳が上がった瞬間は、それは見ものでした。
 だって、装置も衣装も全て揃っている舞台の下のオーケストラピットには、ピアノが2台と指揮者がいるだけだったのですから。


フィレンツェ歌劇場内部


フィレンツェ歌劇場内部、2019年春に観劇した《リア王》のカーテンコール


 燃えたのは、デヴィーアでした。そして、客席も。
 大詰めの狂乱の場で、ピアノを従えたデヴィーアの声が、高く高く舞い上がり、熱を帯びて宙に放たれた時、息を潜めて耳をそば立てていた客席から、悲鳴のような歓声が沸き起こったのでした。
 すべてに勝利したのは、プリマドンナだったのです。
 
 やっぱり、やめられません。生のオペラも、イタリアも。

 最後にご紹介した、デヴィーアの《アンナ・ボレーナ》、ラストシーンの動画がyoutubeにアップされていますので、ぜひご覧ください。



最後までお読みいただきありがとうございます。次回の配信もお楽しみに!

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投稿者名 musica 投稿日時 2020年09月30日 | Permalink

加藤浩子の旅びと通信 第8回  たかがドレスコード、されどドレスコード

こんにちは、musicaです。
郵船トラベルの講師同行ツアー「バッハへの旅」「ヴェルディへの旅」
などでおなじみの、加藤浩子氏による特別寄稿、第8回目をお届けします。

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こんにちは。加藤浩子です。
 「郵船トラベル」さんが主催するツアーで、同行講師をさせていただいています。
「郵船トラベル」さんのメールマガジンの場をお借りして発信している「加藤浩子の旅びと通信」、第8回目の今回は、海外でオペラやコンサートを鑑賞する際の「ドレスコード」についてお話ししたいと思います。


グラインドボーン音楽祭 会場


 「この劇場では、何を着たらいいんでしょう?」
 オペラ、音楽ツアーの説明会の席で、必ず出てくるご質問です。
 ごもっとも。海外の、それも初めて訪れる劇場や音楽祭だったりすると、何を着ればいいか気になりますよね。日本人は周りから浮くことを気にする方が多いですから、なおさらです。
 ふだんオペラに行く機会のない方や、海外での鑑賞が初めての方は、ロングドレスやタキシードを準備しなければならないのでは?と考えてしまいがちです。ずいぶん前ですが、ハリウッド映画「プリティ・ウーマン」にも、ヒロインの娼婦が、恋人のお金持ちに連れられて、自家用ジェット機に乗り、タキシードにロングドレスでオペラ《椿姫》(娼婦が主人公のオペラ。わかりやすいですね)を観に行く場面がありました。アクセサリーは、片手で持つ金色のオペラグラス。主演の二人はリチャード・ギアとジュリア・ロバーツでしたから、それは格好良かったですが。
 オペラを観に行くなら、ああいう格好をしなければならないのでは?
 そう思っている方は、まだ少なくないようです。オペラ=とびきりの非日常、というイメージなんですね。
けれど、日本で実際にオペラ鑑賞に出かけている方ならご存知のように、今どきのオペラ公演ではノーネクタイ、ノージャケットはごく普通。おめかしをしている方もありますが、基本はかなりカジュアルなように感じます。足繁くオペラ公演に通われるファンの方にとっては、オペラは「日常」になっています。


ザルツブルク音楽祭 メイン会場の祝祭大劇場


ザルツブルク音楽祭 会場のひとつ、フェルゼンライトシューレのホワイエ


ザルツブルク音楽祭 2017年の話題公演、《皇帝ティトの慈悲》カーテンコール


では、海外のオペラハウスや音楽祭はどうなのでしょうか。
 これはもう、ケースバイケース、場所や機会によって様々なのですが、やはり、オペラや音楽祭が「日常」なのか「非日常」なのか、という点は大きいです。例えばミラノのスカラ座は、普段はカジュアルな装いの方も散見されますが、シーズンオープニングの日はみなさんとびきりの装いで現れます。その日はスカラ座が「社交界」の最高の役割を果たす日だからです。
 かつて、オペラはヨーロッパでも「非日常」の「社交場」でした。もともとが宮廷芸術ですし、19世紀のオペラハウスはブルジョワ階級の最高の社交場でした。20世紀に入っても、マリア・カラスが活躍していた世紀半ばごろの公演映像などを見ると、客席は申し合わせたようにロングドレスとタキシード。舞台上の歌手のドレスが地味に見えるほどです。
けれどそれから半世紀以上経って、オペラの世界もかなりカジュアル化が進みました。一部の有名オペラハウスは観光名所にもなっているので、地元民より観光客が多いような公演もあり、そんな時は特にカジュアルな方が目立つような気がします。
 カジュアル化の賜物でしょうか、個人的には、カジュアルな服装で出かけて失敗したという経験より、おめかししていったら浮いてしまったという体験の方が多いのです。けれど、そうやって経験を積むうちに、その国の文化に対する考え方とか歴史が見えてくることがあります。たかがドレスコード、されどドレスコード、なのです。


バイロイト音楽祭会場


バイロイト音楽祭会場 建物は簡素だが、音響は抜群


バイロイト音楽祭会場 休憩中の風景


ロンドンを代表するオペラハウス、ロイヤルオペラハウス 外観


ロンドンを代表するオペラハウス、ロイヤルオペラハウス 客席


ロイヤルオペラハウス ホワイエでくつろぐ地元の観客


オペラ=非日常。
そういう世界は、もちろんまだまだ残っています。
代表的なのは、前にあげたスカラ座のシーズンオープニングや、一部の夏の音楽祭。夏の音楽祭の代名詞ともいえるザルツブルク音楽祭や、ワーグナーが設計した劇場でワーグナー・オペラを上演するバイロイト音楽祭などは、歴史も長く、今なお非日常な「社交場」の世界です。ブラックタイにロングドレスが行き交うなかに身を投じるのは、それはそれで愉しいもの。
もっとも、不慣れというのは恐ろしいもので、ある時ザルツブルク音楽祭で、劇場のホワイエの階段を上りながら、はきなれないロングスカートの裾を何度も踏みつけていたら、後ろにいた現地の若い女性が、「こうするのよ〜」と裾をたくし上げて階段を上る方法を教えてくれました。汗。

音楽祭のフォーマル感と非日常感を味わえるとっておきの音楽祭は、イギリスのグラインドボーン音楽祭です。
会場は、貴族のマナーハウス。オペラ好きの貴族が自宅に劇場を作って始めた、いわば個人の道楽で始まった音楽祭ですが、今やヨーロッパの夏を代表する音楽祭の一つになっています。
とにかく、この会場が非日常。広々とした庭園は、そのまま牧草地に続いていて、「ピクニック」と呼ばれる屋外での食事を楽しむ人で賑わいます。その「ピクニック」を楽しんでいる人たちが、タキシードにロングドレスなのです。開演1時間以上前から会場に到着して庭を散策し、1時間ある休憩時間でのんびり食事を取り、終演後も庭やバールで余韻を楽しむ。もちろん顔馴染みとのお喋りを交えながら、丸1日をここで過ごすのです。これこそ夏の、正統な社交場といえましょう。これも、身分社会、貴族社会が色濃く残るお国柄ならではです。


グラインドボーン音楽祭 ホワイエ


グラインドボーン音楽祭 ピクニックの風景


一方で、年間を通して公演をしているオペラハウスのシーズン中の公演は、カジュアルな服装が目立つご時世になりました。
「ライブビューイング」が人気のニューヨークのメトロポリタンオペラ(ライブビューイングの映像で、客席がカジュアルなのに驚く方もいるようです)をはじめ、ウィーンの国立歌劇場、ミラノのスカラ座、ロンドンのロイヤルオペラハウスのような大劇場から、ドイツの地方の劇場まで、シーズン中の公演はカジュアルな装いの方が主流のように感じます。


メトロポリタンオペラ 正面


メトロポリタンオペラ 客席


メトロポリタンオペラ ホワイエ


特にカジュアル化が著しいのはフランスです。数あるオペラハウスの中でもとびきり豪華な建物を誇るパリ・オペラ座(旧オペラ座、ガルニエ宮)では、大理石やシャンデリアで飾り立てられた宮殿のような劇場には不釣り合いと思われるくらい、ジーンズやスニーカー姿の観客が目立ちます(もちろん、お洒落な方もいるのですが)。パリの下町と言えるバスチーユ広場に建つ、現代建築の代表格である新オペラ座(オペラ・バスチーユ)に至っては、劇場のモダンな空間も相まって、オペラハウスというより街の通りの一角にいるような気分になることもしばしばです。
かなり前にパリ・オペラ座が来日した時、協賛したテレビ局で特番を組んだのですが、その中で女優さんがパリで衣装をあつらえてオペラ座に行くシーンがありました。ところが、訪れたオペラ・バスチーユの観客層はポロシャツのようなカジュアルな服装が大半。豪華なイヴニングドレスが、浮いてしまっていた記憶があります。


パリ、旧オペラ座 シャガールの天井画


パリ、旧オペラ座 豪華なホワイエ


パリ、旧オペラ座 観客席


パリ、新オペラ座 外観


パリ、新オペラ座 ホワイエ


パリ、新オペラ座 客席 音響は抜群


私自身、リヨンのオペラハウスで似たような経験をしました。
フランスのオペラハウスのドレスコードがカジュアルなのはわかっていたのですが、その日はシーズンのオープニングだったのでロングスカートをはいて行ったら、これが大失敗。誰一人として、ロングスカートをはいている女性などいません。お隣に座った若い男性はジーンズにスニーカーで、席につくやいなやリュックサックをどさっ!と前に置く始末。終演後のプレス関係者のパーティで会ったパリ在住のジャーナリストに愚痴をこぼしたら、何言ってるの、ここはフランスだよ、とたしなめられてしまいました。笑。
フランスという国は、芸術は日常的なものという考え方が強いのです。あのフランス革命を起こし、すったもんだのあげくに共和制を打ち立て、内実はともかく平等を謳う国の立ち位置もあるような気がします。バスチーユ・オペラ座を計画、建設した当時の大統領ミッテラン氏の考えは、全ての市民にオペラを、だったのですから。
とはいえ、フランスを代表する夏の音楽祭であるエクサンプロヴァンス音楽祭では、そんなフランス人のお洒落な面に出会えます。エレカジ、というのでしょうか、ノーネクタイでもシャツやパンツも洗練されているし、時にポケットチーフを挿したりして、とてもお洒落なのです。ここもまた社交場も兼ねて始まった音楽祭なので、それなりにハイソな客層が残っているのでしょう。


リヨン、オペラ座


リヨン、《マクベス》のモダンな舞台


ドイツのオペラハウスもカジュアル化が進んでいますが、都市によっても相当違います。南部を代表する大都市ミュンヘンは、富裕層が多いのと、カトリックが多い町であることもおそらくあって、かなりドレッシーです。長いあいだバイエルン王国の宮廷所在地であり、劇場(バイエルン州立歌劇場)のルーツが宮廷劇場であることも、関係しているかもしれません。
これが、北ドイツを代表する都会ハンブルクだと、同じドイツの富裕な都市のオペラハウス(ハンブルク州立歌劇場)でもぐっとカジュアルです。ハンブルクが商業で繁栄した「市民」の街で、オペラハウスも市民のための公開劇場としてスタートしていること、そして、質実剛健なプロテスタントの街であることなどが、関係しあっているような気がします。

たかがドレスコード、されどドレスコード。時に失敗しながら、時に感嘆しながら感じるその背景は、なかなか深いものがあるのです。


ミュンヘン、バイエルン州立歌劇場


ミュンヘン、バイエルン州立歌劇場 豪華なホワイエ


ミュンヘン、バイエルン州立歌劇場 カーテンコールの客席


加藤浩子の旅びと通信 第8回 いかがでしたでしょうか? 
今後は月1回ペースで配信の予定です。


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投稿者名 musica 投稿日時 2020年08月31日 | Permalink