加藤浩子の旅びと通信 第2回 「バッハへの旅」の醍醐味、オルガン巡り
こんにちは、マエストロです。
郵船トラベルの講師同行ツアー「バッハへの旅」「ヴェルディへの旅」
などでおなじみの、加藤浩子氏による特別寄稿、第2回目をお届けします。
第2回目は「バッハへの旅」の醍醐味でもある、オルガン巡りについて。
一般の観光ツアーではまず行かない、たとえ個人旅行でもなかなか実現が難しい
バッハゆかりの教会で聴くプライベートコンサート。
その内側をお話いただきます。
「バッハへの旅」の醍醐味、オルガン巡り
こんにちは。加藤浩子です。
「郵船トラベル」さんが主催するツアーで、同行講師をさせていただいています。
この度、「郵船トラベル」さんのメールマガジンの場をお借りし、
「旅びと通信」と題して、印象に残っているツアーの思い出などを発信させて
いただいています。どうぞよろしくお願いいたします。
前回の第1回では、初めての同行ツアーとなり、現在でも続いている
「バッハへの旅」の事始めをご紹介しましたが、
今回は「バッハへの旅」でご好評をいただいているバッハのオルガン巡りについて
ご紹介させていただこうと思います。
オルガン演奏の動画もありますので、ぜひ最後までお付き合いください。
前回もちょっと触れましたが、「バッハへの旅」は、2000年の3月に第1回を
催行して以来、現在まで続いているツアーです。
催行は合計29回、ご参加人数は延べ642名。
続編にあたる「続バッハへの旅」を含めると、合計は39回、参加人数は
857名にのぼります。
手前味噌ですが、「音楽ツアーのベストセラー」と言っていいのではないでしょうか。
よく、「いつも同じメンバーが見えるのでしょう?」と言われますが、
「バッハへの旅」の場合、リピーターの方は全体の2割くらいです。
というのも、訪れる先は毎回同じ〜バッハゆかりの地めぐり〜ですし、
ツアーのハイライトが6月に開催されるライプツィヒのバッハ音楽祭
(今年は残念ながら中止になりました)というのも、長年変わらないからです。
ですので、1度、せいぜい2度来れば様子はわかります。
第一、20年続いているツアーに毎年来続けるのは物理的にも不可能だと言うことは、
ちょっと考えればお分かりいただけるのではないでしょうか。
これも自分で言うのはおこがましいですが、
大半のメンバーが新規の方というのはすごいことで、バッハの音楽のパワーを
毎回痛感しています。バッハは本当に、深く好きになる方が多い作曲家なのです。
さて、「バッハへの旅」で好評をいただいている内容が、バッハゆかりのオルガン巡りです。
バッハが実際に弾いたオルガンを訪ね、ツアー専用のプライベートコンサートを
行ってもらうのです。
バッハゆかりの地を訪ねたり、ライプツィヒのバッハ音楽祭を聴きに行くことは
個人旅行でも可能ですが、プライベートのオルガンコンサートは、
個人旅行ではまず難しいでしょう。
このプライベートコンサートというアイデア、当初は頭にありませんでした。
ツアーの初期の頃は、「これがバッハの弾いたオルガンです」と説明するだけで
終わっていたのです。
が、ある時、「オルガンを見るだけじゃしょうがない、音を聴きたい」とお客様に言われ、
それはそうだと納得。
以来、旅行会社さんの手配で、プライベートコンサートをお願いすることになりました。
これが、ハマるのです。
パイプオルガンといえば、日本で一般的に聴けるのは、
コンサートホールについているオルガンでしょう。
けれどもともと、オルガンは教会の楽器です。教会があれば、必ずと言っていいほど
オルガンがある。教会と一体化している楽器なのです。
数世紀前に建造された歴史的な楽器も少なくありません。
ですので、まずオルガンを見学するだけでも面白い。
歴史的な楽器は手作りですから、外見も音色も皆違います。
美術品に匹敵するようなオルガンもあります。一つとして、同じものはありません。
オルガンを巡るのは、街を巡るように興味をそそられる体験です。
例えば、アルテンブルクという小さな町のお城の中の教会にあるパイプオルガンは、
トローストというオルガンビルダー(製作者)が作ったものですが、これが凄い。
祭壇に向かって左側にしつらえられているのですが、祭壇よりよほど豪華で、
圧倒的な存在感で君臨しています。
堂内の3分の一くらいがオルガンで占められているような印象なのです。
このオルガンが完成した時、バッハがやってきて検分をし、
こけら落としの演奏会をしたので、それもあって聴きに行くわけですが、
音色は外見の壮麗さから想像するより柔らかく、
繊細で、温かみがあります。それがトローストの特徴だそうで、
バッハもこのオルガンがお気に入りだったとか。
いくつかオルガンを見て聴いていくうちに、
それぞれの個性が薄々わかってくるのも面白いのです。
このオルガンとは対照的にこじんまりした楽器ですが、
とても印象に残っているオルガンの一つに、シュテルムタールと言う小さな村落にある
十字架教会のオルガンがあります。
ヒルデブラントという製作者が1723年に完成させた楽器で、
やはりバッハがこけら落としにやってきて、自作のカンタータも上演したと言う
いわくつきのオルガンなのですが、現在の教会の建物の完成と同時に作られ、
当時の姿をほぼそのまま残している、とても貴重な楽器です。
オルガンの脇には、バッハが座ったというベンチも残っています。
実はオルガンというのは(教会の建物や装飾もそうですが)、時代の趣味によって
外見もパイプをはじめとする中身もどんどん変えられてしまうので、
18世紀に作られたといっても音色や外観が当時とは違っているものがほとんどです。
建造当初の姿を復元することもよく行われますが、オリジナルのまま残っているのは、
とても少ない。
シュテルムタールのヒルデブラント・オルガンは、その稀少なオルガンの一つなのです。
このオルガンが教会ともどもオリジナルな姿を残していることは、
堂内を見渡すとすぐわかります。オルガンと、祭壇や座席のバルコニーなど、
堂内の他の部分の色合いや装飾が共通しているからです。
オルガンを含めた内装全体が、同じトーンで統一されている。
オルガン目的にずいぶん教会を訪れましたが、こんな教会は他に知りません。
ここのオルガンは、調律も「ミーントーン」という、「長三度」という音程が
一番美しく響く調律法で行われているので、とても独特な音がします。
「ミーントーン」では、現在一般的な「平均律」のようにすべての調が均等に
美しく響くのではなく、特定の調が美しく響くように設計されているのです。
さて、バッハのオルガンといえば、バッハが初めて就職したアルンシュタットの
バッハ教会にあるオルガンをご紹介しないわけには行きません。
1703年、18歳のバッハは、生まれ故郷のアイゼナッハからそう遠くない、
そしてバッハ一族の本拠地の一つだったアルンシュタットの「新教会」に完成した
新しいオルガンの奏者として、初めて定職を得ました。
この街で、バッハは初めての妻となるマリア=バルバラと恋に落ち、
若気の至り?の喧嘩騒ぎなど数々のエピソードを残しながら、青春の5年間を過ごします。
中央広場には、生誕300年の1985年に作られた若き日のバッハをイメージした
銅像が、生意気そう睨みを利かせています。
当時の「新教会」は、今は「バッハ教会」と名前を変え、
バッハがその華麗な腕前で信徒の度肝を抜いたこともあったと伝えられるオルガンは、
何度かの改造を経て、バッハ当時の音色が復元され、今に至っています。
現在のオルガニストは、北ドイツ出身のヨルク・レディン。
一般的な教会オルガニストと違うのは、私たちのツアーのように「バッハのオルガン」
を見に押しかける人たちに、プライベートコンサートやオルガンのガイドを
する仕事がとても多いことだそうです。その回数たるや、年間75回!くらいに
のぼるとか。
確かに日本からツアーを組んでオルガンを聴きに来るなどということは、
田舎町の普通の教会のオルガンならまずあり得ないことでしょう。
やはり、バッハの力は偉大です。
このメルマガでご紹介したバッハのオルガンの話をはじめ、
ツアーの体験もいろいろ盛り込んだ近著が、『バッハ』(平凡社新書)です。
バッハの人生、ゆかりの地の案内、最新の発見から名曲のディスクガイドまで、
これ1冊でバッハのすべてがわかります。
ご興味を持っていただけるようでしたら、ぜひご一読くださいませ。
「バッハのオルガン巡り」いかがでしたか?
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