小笠原からの嬉しい便り ~奇跡の遭遇!アオウミガメ2000キロの旅~

ただいま台湾沿岸を遊泳中

 2019年11月6日、郵船トラベルがチャーターした飛鳥IIは小笠原(父島)に寄港し、海洋生物の生態を調査・研究し、アオウミガメの保全活動を行っている小笠原海洋センターの協力のもと、アオウミガメの放流を行いました。
 このときに放流したウミガメが2022年8月21日、台湾北東部の沿岸を日本生まれを示すタグを付け遊泳中、地元のダイバーと遭遇したと、口絵の画像が添えられた嬉しい便りが小笠原から届きました

 小笠原から台湾へ、2,000キロ以上の長い旅、よく頑張りました。見つかったウミガメは2018年小笠原生まれの今は約4才、放流時23センチだった甲羅はタグの長さ3.5センチから推定すると30センチくらいに成長したと思われ、元気な姿に勇気をもらい感激、実はこれはいくつもの奇跡が重なったからこそ知りえたことなのです。
 奇跡のお話の前に、まずはウミガメの生態をご紹介しましょう。


アオウミガメ©小笠原村観光局

 「涼しくなってきたね」「じゃあ、そろそろいいかな?」「うん、準備万端」「みんなっ、出発するよ」「おー!」。ここは南の島、容赦なく照り付ける太陽が白い砂浜を熱し、やけたトタン屋根の猫のごとく素足では飛び上がるようにしか歩けない真昼、子ガメたちは地中に身を潜め、来るべき時をじっと待っています。夜の帳が降り、月がのぼり、静かな海を明るく照らすとひんやりした砂の中ではこの時とばかり、もぞもぞと動き始め、こんな会話をしているのかもしれません。

 ハネムーナーが南の島を好んで訪れるように、日本近海で生活するアオウミガメも恋愛、結婚、出産の地に南西諸島や小笠原諸島などを選んだようです。
 2月~5月ごろ、小笠原諸島へやって来たアオウミガメのカップルは海上でぷかぷか浮かびながら交尾を行います。5月~8月ごろ、母ガメだけが夜の砂浜に上陸し、深さ60センチほどの大穴を掘り、1度の産卵で100個前後の卵を産み落とします。大切な宝物を隠すように丁寧に砂をかけて海に戻ります。これを2週間おきに4~5回ほど繰り返すそうですから、偉大なる母ガメはとてつもないスタミナの持ち主に思えます。


アオウミガメの産卵©小笠原村観光局


 待望の孵化(脱出)は7月~10月ごろに始まります。産卵後2か月ほど経つと自ら殻を破って卵から出てきます。数日間砂の中で過ごした後、皆で協力しあって砂の中から這い出します。赤ちゃんカメの甲羅は4~6センチ程度、昼間に地上に出ると鳥に捕食されたり、太陽の熱にやられてしまうため、砂の温度が下がる夜までじっと待つのです。また、殻の空洞を利用して脱出するため1匹だけではなく、いっせいに砂を掻いたほうが脱出しやすいようです。そして海のわずかな輝きを頼りに、これから始まる大冒険へとすすんでいくのでした。


生まれたばかりの子ガメ©小笠原海洋センター


 海へ旅立ったアオウミガメは自力で餌を探さねばなりません。幼体のときは雑食性ですが、甲羅の長さが30センチほどになると草食性の強い雑食に食性が切り替わっていきます。主に海草や海藻を食べるため体内の脂肪が緑色に染まり、アオウミガメの名の由来となりました。少し不思議に思うのは、小笠原付近で一生を過ごすことはなく、餌場となっている本土の沿岸や台湾までも大周遊することです。そして、30年~40年後、再び生まれ故郷に戻り繁殖を行うそうです。ウミガメには生まれた場所を記憶し地磁気を感じる能力があるという説がありますが、詳しいことはわかっていません。
 ところで、自然孵化した子ガメの生存率、どのくらいだと思いますか。推定で0.2~0.3%、つまり1,000個の卵(10回の産卵)で、わずか2~3匹だけしか生き残れないことになります。これでは生態を調査するのも難しく、絶滅が危惧されても仕方ありません。そこで、小笠原海洋センターではヘッドスターティング(短期育成放流事業)を行っています。


ヘッドスターティング(短期育成放流事業)で海へ向かうアオウミガメ©小笠原海洋センター


 ヘッドスターティングとは孵化した子ガメを、最も外敵に襲われやすい約1年間、管理飼育し、体重1キロ以上に育ててから放流する事業で1910年から行われてきました。生まれて間もない子ガメは小さすぎて個体を識別するタグを装着することはできませんが、1年間育ったウミガメには後肢に識別番号が記載されたタグを装着して放流します。こうすることにより、どこかの海域で再捕されたとき、出身が判明し、回帰後の上陸回数などを調べることができるのです。また、再捕率も3%と自然孵化に比べ格段に高いのです。


今日ものんびり海藻さがし

 そう、2019年に我々が放流したウミガメはわずか8頭、うち1頭が元気に台湾を周遊していることは再捕率からして奇跡なのです。さらには台湾のダイバーが水中撮影し、その画像が小笠原へ送られたのは見つけてくれたダイバーが小笠原海洋センターのスタッフの知人との繋がりがあったからだとか。
 たまたま出会ったウミガメを、水中カメラで撮影し、タグを読み解き、覚えのある日本の関係者に海外から知らせてくれるなんて偶然というよりこれは奇跡かもしれません
 このアオウミガメは暫く台湾沿岸で過ごすと推察されます。そしていつか “お年頃”になって小笠原に戻り、恋をして、かわいい赤ちゃんカメが生まれるよう願ってやみません。

 小笠原海洋センターでは1年中、子ガメの飼育を行っているので甲羅磨きや放流などもご体験いただけます。ぜひ、クルーズ船で訪れてみてはいかがでしょうか。それでは最後に2021年の動画とはなりますが、ヘッドスターティングで育成したアオウミガメ放流の様子をご覧ください。


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投稿者名 emix-remix 投稿日時 2022年12月01日 | Permalink