三代にわたる客船“クイーン・エリザベス”を見守った偉大なる母「エリザベス女王」。その名はクルーズ史に永遠に語り継がれていくことでしょう。
1938年9月27日、後に世界で最も偉大で愛された女性のひとりとなる12歳のプリンセスはクライドバンク(Clydebank/スコットランド中西部の都市)の造船所で初めて体験するイベントを心待ちにしていました。キュナード・ホワイト・スターライン(当時の社名)の会長パーシー・ベイツ卿はエリザベス王女に旗竿からぶら下がっているエンパイア・ワインのボトルを指さし、船の側面にぶつかる準備ができていると説明したからです。
目の前には彼女と同じ名の、当時世界最大の客船、初代“クイーン・エリザベス(RMS Queen Elizabeth)”が王室一家と多くの聴衆に見守られ、まさに進水の時を迎えようとしていました。
初代のクイーン・エリザベスは現代のクルーズ船とは異なり、航空機輸送が台頭する前、英国と米国間を移動するオーシャンライナーとして活躍していました。艦船接頭辞の「RMS」は名誉ある英国郵便汽船(Royal Mail Ship)」を意味し、日本においては明治初期に創業した日本郵船の社名同様、文字通り郵便物の運搬も行っていました。
時は遷り1967年9月20日、クライドバンクの造船所ではキュナード社の新造船“クイーン・エリザベス2(RMS Queen Elizabeth2)”の進水式が盛大に行われていました。すでに君主になられていた41歳のエリザベス女王が臨席し、ゴッドマザー(名づけ親)としてこのように宣言したのです。'I name this ship Queen Elizabeth the Second. May God bless her and all who sail in her.’(私はこの船をクイーン・エリザベス・ザ・セカンドと名付けます。神が彼女と彼女の中で航海するすべての人を祝福してくださいますように)。
1969年5月1日、ニューヨークへの処女航海の前日、エリザベス女王は夫のフィリップ王配を伴い、ご自身が名付けた客船の内覧のため、サウサンプトンを訪れました。約1時間ご覧になり、案内した士官に ‘it really is very lovely’(本当に素敵です!)とおっしゃったそうです。
クイーン・エリザベス2も当初は初代のように、大西洋定期横断航路専用客船として利用されていましたが、航空機輸送の波が押し寄せ、最後のオーシャンライナーとなったのです。
1970年代以後は観光客のために世界一周クルーズを行い、神戸港にも何度か訪れたのでご記憶のある方も多いかと思います。そして2008年に惜しまれつつ引退、現在はドバイに係留され「クイーン・エリザベス2ホテル」として余生を過ごしています。
2010年1月5日、最新鋭の設備と初代クイーン・エリザベスの就航した1930年代のアール・デコの内装が施された本格的なクルーズ客船、三代目の“クイーン・エリザベス(MS Queen Elizabeth)”が進水を迎えました。
命名式は処女航海出航の前日、同年10月11日にすでに84歳になられていたエリザベス女王をお迎えしてサウサンプトンで行われました。女王は船内を内覧され、クイーンズ・ルームに誇らしく掲げられているご自身の肖像画もご覧になったそうです。これは31歳の若き芸術家イザベル・ピーチィ( Isobel Peachey)によるもので、王室の肖像画を依頼されたことは一度もなく、オファーがあったときは驚愕したと後に語っています。
悲しいことにこれがゴッドマザーとしての女王最後の仕事となってしまいました。エリザベス女王はふたつのクイーン・エリザベスの他、2004年にはクイーン・メリー2のゴッドマザーも務められ、3隻の客船の名づけ親となったのです。
英国連邦の君主として70年の在位、いくたびかの戦争や紛争を乗り越え、世界中から愛されたエリザベス女王は2022年9月8日、96年の生涯を閉じられました。心よりご冥福をお祈りいたします。
三代にわたる世界一有名な客船“クイーン・エリザベス”を見守られた女王、その名は誰も忘れることはないでしょう。それでは最後にエリザベス女王が臨席された命名式の様子を動画でご覧ください。
いかがでしたでしょうか。英国の伝統と格式あるクイーン・エリザベス、船内はいたるところにエリザベス女王のエスプリが感じられるように思います。クイーン・エリザベスは2023年に続き、2024年も日本から発着し、クルーズを行います。是非、君主の面影が残る客船に乗船してはいかがでしょうか。
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